当店スタッフが執筆した書籍が出版されました。
この度、『わが国におけるポリヴェーガル理論の臨床応用』(花丘ちぐさ編著、岩崎学術出版社)の執筆に当店スタッフが協力させていただきました。
ポリヴェーガル理論は、神経科学者 Stephen Porges によって提唱された自律神経系に関する理論です。
自律神経系は、心臓や肺などの内臓器官の制御や体内の恒常性維持において重要な役割を果たしており、その働きは主に無意識に行われます。
ポリヴェーガル理論は、この自律神経系の働きを詳細に解明し、社会的な行動や情動にも深く関与することを示唆しています。
この理論では、自律神経系を以下の 3 つの主要な部分に分類し、それらのバランスが重要であると捉えています。
背側迷走神経(Dorsal Vagus Nerve):
この神経系が優位な状態は、「シャットダウン」や「凍りつく」反応と関連付けられています。 安全ではないと感じる状況下で、心拍数や呼吸数が低下し、無力感や圧倒感、身動きが取れない状態に陥ることがあります。 引きこもりや、慢性的なストレスによるバーンアウト(燃え尽き症候群)といった状態も、背側迷走神経の優位と関連していると考えられています。
腹側迷走神経(Ventral Vagus Nerve):
これは「安全・社会的接続」の状態に関連付けられ、リラックスや安心感、社会的つながりを促進します。 穏やかな心拍数や呼吸数、穏やかな表情、他者との良好なコミュニケーションなどが、腹側迷走神経優位の状態を示す指標となります。 信頼関係の構築や、積極的な社会参加に重要な役割を果たします。例えば、友人と楽しく会話している時や、自然の中でリラックスしている時などは、腹側迷走神経が優位になっている状態と言えるのかもしれません。
交感神経(Sympathetic Nervous System):
これは「戦うか逃げるか」反応として知られる、ストレス反応に関与する神経系です。 危険やストレスを感じた際に、心拍数や血圧が上昇し、身体が活動状態になります。 これは生存に不可欠な反応ですが、慢性的に交感神経が優位な状態が続くと、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
ポリヴェーガル理論では、これらの3つの神経系のバランスが重要であり、状況に応じてどの神経系が優位になるかが行動や感情に影響を与えると考えられています。
医療現場では、多くの患者さんが、様々な要因によって腹側迷走神経の状態を維持することが困難になっている場合があります。 また、医療従事者自身も、常に腹側迷走神経が優位な状態を保てるとは限りません。 過重労働や患者さんとの感情的な関わり、職場環境のストレスなどによって、背側迷走神経や交感神経が優位になりやすい状況に置かれる可能性があります。
Hitomi et al(2022)の研究の研究では、特に看護師がストレスの影響を受けやすく、バーンアウトが多いことが示されています。24 時間体制で患者のケアを行う看護師など、多大なストレスを抱える医療従事者の現状を無視することはできません。
患者さんを良好な状態に導くためには、医療従事者自身が腹側迷走神経優位の状態を保ち、安心して治療やケアを受けられる環境を整備することが重要です。 ポリヴェーガル理論に基づいた自己ケアやチームワークの構築は、医療現場におけるストレス軽減と、より質の高い医療提供に繋がることが期待されます。
ポリヴェーガル理論は、医療現場における患者と医療従事者双方の状態を理解し、より効果的なアプローチを考案する上で重要な枠組みを提供します。
本書は、臨床の現場でこの理論を応用し、より包括的で共感に基づいた介入の実現を目指しています。 本理論を理解し、実践することで、患者と医療従事者双方にとってより健全で持続可能な医療環境の構築に貢献できると期待されます。
引用文献:Hitomi, T., Ikeda, K., Fujiwara, H., Hitomi, R : Comparison of resilience level among occupations and the relationship between resilience and relaxation in our recovery rehabilitation ward: a pilot study. Journal of Ergonomic Technology, 2022, 22 (1), 18-28.
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